体育教育界に革命を起こし続けている小澤治夫先生と
親子体操の先駆者として走り続けている上田泰子
~この2人が一般社団法人22世紀親子からだ育て塾で思いを一緒にする~
22世紀に向けての熱い思いを語り合いました。(6回に渡りお届けいたします)
2018年10月29日、代表理事 上田泰子、庶務 赤坂泉、地元静岡で活躍している小井啓子の3名が、塾長 小澤治夫先生がご指導されている静岡産業大学を訪問いたしました。
特集記事
塾長 小澤治夫
代表理事 上田泰子
第1弾
-
設立のきっかけ
上田:本日は、小澤先生に、22世紀親子からだ育て塾の塾長として、私たちの活動を見守っていただきたいと思って伺いました。
小澤:詳細を伺うまでもなく、塾長をお引き受けいたしますということをまずはお伝えいたします。
上田:ありがとうございます。小澤先生との交流は、先生が中高の教員時代に始まりましたので約40年にもなります。
小澤先生に出会ったからこそ、今の日本に必要な子ども時代の運動指導・大人の生き方に関して軸のある活動として歩んできています。改めて感謝申し上げます。
小澤:こちらこそ、ありがとうございます。ところで、今までも法人化する機会はあったと思うのですが、今回、一般社団法人を設立した理由をお伺いしてもよろしいでしょうか。
上田:はい、ある全国版の新聞へ20代女性の投書を目にした事が理由の大きな一つです。
その投書は「私は誰からも羨ましがられる学校に行って、いわゆる一流企業といわれる会社で働いています。(中略)こんな私が時折深い不安に襲われ生きている自信が持てなくなることがあるのです。それは私の記憶の中に、親と(誰かと)遊んだ記憶がどこにもないことです。(中略)生きる価値が見出せません。どうやったら生きたらいいですか?」といった内容でした。
その記事を目にした時に、なんとも切ない気持ちが溢れ出し心が揺さぶられました。
私は、誰かと夢中になって遊んだ記憶が、「生きる自信」のようなものをもたらすのではないかと思っています。
小澤:その彼女は、小さい頃から外に出て遊んでいなかった事が大きな原因かもしれませんね。いくら勉強が出来ても、身体と心とのバランスが取れてないと、どうしようもない。
私は、日本でもトップクラスの進学校で教職についていた時期がありますが、そうした勉強に比重を置いたアンバランスな教育を受けてきたが故に、彼女と同じような悩みを抱えドロップアウトしてしまう生徒もたくさん見てきました。しかし、同校でも運動部にはいっていた生徒たちは、皆タフで、すごく頑張る生徒が多かった。一概には言えない部分もありますが、運動部に所属していたエリートは、その後の人生も自分一人の力でしっかりと歩んでいるように思います。
上田:そういう生徒さんたちは「自分に生きる価値がある」「人生を楽しむ」という自尊感情というのが育っている子だと思います。そうした感情を育てるのにも運動やスポーツが重要と思うので、それを22世紀親子からだ育て塾の活動を通して、一人でも多くの子どもたちに伝えたいです。
小澤:私も69歳になって実感するのは、たった1回しかない人生は、あっという間に過ぎ去っていくということです。どのようにして、自分のやりたいことをやっていくのか、そのために、どうやって逞しく生きるのか。そこに尽きる。そのための能力を育むのが教育です。その能力の中に、学力もあれば、気力や体力もある。自分は何を成し遂げたいかという意欲もそこの中にあります。それには単純なプログラムなどではない、多様な経験が必要なのです。
第2弾 「22世紀を考える」
小澤:「22世紀親子からだ育て塾」という名の由来について伺ってもよろしいですか?
上田:例えば今日産まれた赤ちゃんが、22世紀には82歳になる。その時に、彼ら、彼女らの体力や、自分に対する自信は、どうなっているだろうか、22世紀に命を繋ぐ喜びを感じて欲しい…。そんな思いをこめて名付けました。
22世紀という未来を見据えていきたいのです。
上田:親子っていうとどうしても、いまだに「子どもを健やかに育てたいよね」という考えが前面に出てきます。もちろん最重要課題です。それとともに人生100年の時代は、子育て後の人生のほうがずっと長いですよね。
20代~30代の女性の運動実施率は10%といわれたりしますが、子育て中の親の運動実施率は、どうなのだろうと考えてしまいます。OKJの親子教室は、親も身体を動かして、心拍数をあるレベルまであげていったり、筋力を鍛えたりするなど、親の体力要素にも働きかけています。産後のママだったら、産後のホルモンの様子なども考慮しながら自分の身体も動かしていく。親子で夢中になって遊びながら、フィットネスを行うというコンセプトを、非常に大事にしているのです。子どもも健やかで元気に、主体性を持って運動をやりながら、尚且つ親子で遊ぶということがとても大切だと思うのです。
小澤:健康寿命が伸びて、人生100年の時代に入っているからこそ、大事な考え方ですね。
第3弾 「家族健康経営(前半)」
小澤:パンフレットにある「家族健康経営」という言葉は上田先生が考えられたのですか?
上田:そうです。いま、企業で「健康経営」が注目されていますが、家族という組織においても「健康経営」を実践していけば、結果的
に心も身体も豊かになり、経済的にも余力が生まれるのではないかと考えました。
小澤:おっしゃる通りだと思います。
上田:子育て中の両親の心や身体の状態が、快適であることは、親子間における多様な問題の解決にも役立つのではないでしょうか。それが「家族健康経営」だと思うのです。
育児体力の為の余力は必ず必要です。背筋力は、自分の体重の1.5倍必要だといわれます。私は産後のママさんと数多く出会っています。多くのママさんから手首が痛い・目がかすむ・腰が痛い・足首が痛い・肩がこる・首が痛い・風邪をひきやすくなった・体がだるい・なんとなく憂鬱・・・など、をはじめからだや心の不調に関する相談を多くいただきます。
それぞれ、運動により復調されるケースがもの凄く多い。どんどん元気になっていくと、ママの表情も明るさが増し、赤ちゃんの嬉しそうな笑顔もどんどん膨らんでいきます。そのうち、パパさんも一緒にレッスンに参加されたりして、運動が家族の健康増進に大きく貢献して、経済や夫婦間の良好な関係にまで及び当然医療費の削減にもなり、元気に仕事も出来るなど色々な好循環が生まれる・・・まさに「家族健康経営」
産後や子育て中のママやパパに役立つ正しいトレーニングの仕方を伝えること、個人の症状に合せたスポーツ科学の知識を伝えること、科学的に女性の身体、男性の身体のメカニズムに沿った運動指導を今後も継続してやっていきたいと思っています。
何より、妊娠前からのからだ育て…フレイル(体が虚弱な状態)の回避も重要と考えます。
小澤:それは非常に重要ですね。
上田:共働きが当たり前の時代になっているので、時期がくれば職場に両親とも復帰する人が多いです。社会に出てバリバリ仕事をしている人たちはロジカルに物事を考えられる力が豊かな方が多いので、今、親子で運動をして、子どもと十分にかかわることで、身体も心も健康になり今後の親子関係も豊かになることがわかっているわけですね。
第4弾
・家族健康経営(後編)
上田:私のメインの活動拠点になっている東京都・品川区にある品川健康センターには、その象徴的な事例が数多くあります。同センターのOKJの親子教室(特に平日の母子のクラス)では、自身の産後のケアや職場復帰してからの生活に必要な体力アップを目指して多くの皆様が集ってくださいます。また、土日は、パパさんの参加も非常に積極的です。皆さん、子どもとの関係を豊かにするため、子どもの発達に良好に働きかける方法を学ぶために積極的に参加してくださり、クラスは、いつも満杯です。その数は、実に1週間に約1,000人の親子が訪れるほどなのです。
一方で、全く運動しない親御さんも大勢いるのが現状といわれますね。「子どもが小さいから」「忙しいから」といった“できない理由”を作る人たちにアプローチするきっかけづくりが大切なのだと感じます。今後の夢の一つとして、保育園や幼稚園に迎えにくるママやパパたちに、10分程度の気軽な体操を指導するといったことができたらなと思っています。また、産後うつの問題とも向き合うことが多いので、そうしたことも含めて「家族健康経営」という概念を伝えていきたいですね。
小澤:私も専門家ではないので、慎重にお話しなければいけませんが、うつ症状というのは、朝、散歩するだけで改善されていくといった報告があると聞いたことがあります。日本体育大学教授の野井真吾先生も、22世紀親子からだ育て塾の学術委員として参加されていると伺っていますが、その野井先生たちのグループがこどもたちを対象に研究されているデータでも、そうしたことがわかっているそうです。その実験は、朝に散歩するグループと、しないグループに分けて行う対照実験なのですが、朝に散歩するグループにおいて唾液で測られたメラトニン・サイクルが改善されたというデータが報告されていいます。そうした意味でも、外に出ていることが大事なのですよね。
上田:虐待の問題についても、本当に胸のしめつられる思いです。けれども、私は親を責めるまえに、なぜ周囲がそうなってしまったのかを気付かなかったのかなという思いに駆られます。
つい子どもに手が出てしまうことに悩んで保健師さんとともに私のところに相談に来られた方がいました。私からの提案は、まず、外に出ようということ。家の中で子どもと2人でとじこもっていると、いろいろな思いが行き詰ってしまう。外に出れば光りを浴びる(受光)「その空間にいて座って眺めているだけでもいいから出ておいで」と声をかけました。そうして親子のクラスに参加している中で、親子ともどもお友達ができて、徐々に問題が解決して行ったことが沢山ありました
そうした事例も経験したので、最近では、ママやパパが子どもたちと集まって、お話をするだけ(体操の後に少し悩みを話したり、お喋りしたりする)のクラスも担当させていただいています。特に、バリバリのキャリアを持って仕事をしていたママが子どもを育てるために家庭に入ったら「誰とも話すひとがいない」「誰にも認められない」といった気持ちに陥りやすいといわれていますね。
子育ては、成果が見えるまでに非常に長い時間がかかります。1週間一歩も家を出てないといった乳幼児の子育てママのお話を聴く事があります。OKJには産後1ヶ月の乳幼児のクラスからありますので、とにかく家から出て外の社会と接点を持ってもらうことが、閉じこもりがちな親子ともに抱きやすい問題を解決できるのではと思っています。
第5弾 行政との関わり合いの中で
上田:日本の行政は縦割りだと批判されることがよくありますが、親子の体力づくりや健康も、そうした問題に直面していると感じます。実際に聞き及ぶことが多い事例として、スポーツ推進課に行けば「乳幼児に関するスポーツや運動は、うちよりも子育て支援課です」と言われ、子育て支援課に行けば「スポーツのことはスポーツ推進課ですよね」と言われてたらい回しのような状態になっているというのです。
結局、子育て中の体力づくりや、親子で触れ合って運動するといった事柄は、スポーツと子育てという区割りの間に落っこちてしまっており、行政に受け皿が必要なのだと思います。だからこそ、私たちが一般社団法人を立ち上げる必要性を強く感じました。一方で、前出の品川健康センターのように、行政と指定管理者が協力して親子の体力づくりや健康に積極的にアプローチしてくれている地域もあります。こうした事例が日本全国に広がればいいなと思います。
小澤:日本フィットネス協会の理事にもなっていただいている東海大学教授の萩裕美子先生は、私が北海道で勤務していた時代にやっていたのと同様の健康運動に関する研究をされています。これまでの研究において、健康のために運動をスタートした人のうち、約90%がドロップアウトするというデータが報告されています。健康のために、歩け歩けと言ったって、まったく歩かないということがデータで示されているのです。では、なぜ運動が継続できる人がいるのかというと、やはり運動が楽しいと感じているからです。そこに尽きます。運動が楽しいを思わせるために必要な要素は何かと言えば、一つは環境です。公園ができれば皆そこに行く。それが萩先生の研究の発見の一つです。
公園に行けば、身体を動かす。身体を動かせば必ず健康になるということなのですよね。こうした環境づくりにも、行政が果たす役割は大きい。静岡産業大学のある磐田市にも、そうしたインフラ整備や組織づくりが必要なので、磐田市長に提言したり、ヤマハラグビー部監督である清宮さんと一緒に、地域スポーツで何か活動できないかと会合を重ねたりしています。
上田:行政や地域のスポーツ活動と連動して動いていくことは大切ですよね。OKJにも品川区の地域活性化の為に、様々なイベントの依頼があります。先日は、天王洲の運河沿いでイベント依頼を頂き、運河沿いという開放感のある場所での運動が大盛況となり、今後の展開へと繋がっています。
小澤:現在、こどもの人口は100万人と言われていますが、あと4~5年たつと80万人しかいなくなるのです。この数字は、私たちが子どもだったときの250万人という数の約3分の1です。こうした少子高齢化した人口分布のいびつな部分が引き起こす問題が、今後次々と出てくるわけですよね。日本は、医療費や介護費によって財政が破綻しかけている状態です。そうした中で、健康寿命を延ばす、要介護人口を減らすということは喫緊の課題です。そこで、私は静岡産業大学が核となったスポーツ教育の静岡モデルを私は作りたいと思っています。乳幼児から高齢者まで、全ての年代にわたったスポーツインフラを磐田市にも構築していきたいですね。
最終章 「日本の体育教育を変えてゆく」
小澤:もう一つの問題が日本の体育教育です。静岡産業大の中で、子どもたちのための健康運動・健康スポーツの普及をしていく上で苦労しているのは、こども教育を専門としている先生がたに、身体を動かすということに抵抗感を持つ人がけっこうな数いることなのです。それらの先生がたは「お遊戯」の世界、つまり知育や徳育のほうを重視しており、体育はあまり重視していません。体育は、本来、知育や徳育の要素も持ち合わせています。
なぜ、子どもの教育に携わっている人たちが、身体を動かすことやスポーツが、あまり好きじゃないのかというと、それは、日本の体育教育が駄目であったからだと私は思います。日本の体育教育では、運動能力が高く、スポーツのできる子たちのみが褒められて、そうでない子は虐げられ劣等感をもっている。そういう構造を日本の体育の世界に作ってしまった。そんな中で苦手意識を持ってしまった先生がたが多いのだと思います。体育身体活動は、子どもの教育において非常に重要ですよね。
上田:OKJに参加する指導者たちは、もちろん体育が得意な人もいますが、不得意だったという人も多いです。それらの指導者に理由を尋ねると「子どものときに、ずっと体育が嫌いだったから。好きになる方法を勉強して教えたい。」という答えが返ってくる。そんな指導者が多いので、運動が嫌いという子どもたちにも寄り添っていけると思っています。
小澤:それは素晴らしいですね。
上田:幼児の体育プログラムは、国語や算数・理科・社会・図工や音楽の多様な要素が入って融合されて成り立ちます。様々な学習要素を併せ持った総合教科だなと思いながら指導プログラムの立案・普及をしています。何より体育プログラムでコミュニケーション能力が育まれます。今後は、幼稚園児にわかる保健体育みたいなものをセットでやっていきたいなというのが私の夢で、すでに実現しはじめています。人生短いので、やりたいことはすぐにでも始めないといけないという思いですね。
小澤:確かにそうかもしれませんね。私たち教師は、卒業生の行く末を見て行く楽しみが人生にある。そういうことを見ることができるような仕事が教師です。上田先生のような運動指導者も一緒ですよね。
上田:そうですね。親や子どもたちに内在する能力を高めていく手助けが、これからの22世紀を作っていくことになると思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。